東京高等裁判所 平成11年(行コ)203号 判決 2000年1月20日
控訴人
西澤治作
被控訴人
長野税務署長 菊池明夫
右指定代理人
中垣内健治
同
須藤哲右
同
今泉憲三
同
齋藤隆敏
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の当審における追加的請求を却下する。
三 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成八年一〇月一八日付けで控訴人に対してした平成七年分の所得税の更正処分(平成一〇年一月三〇日付け裁決により一部取り消された後のもの)のうち、総所得額一三九万八三八四円、分離課税の長期譲渡所得金額一一九三万二二三七円、納付税額一七八万六〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。
4 被控訴人は、控訴人に対して、不当利得金八三四万五七〇〇円を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二事案の概要
事案の概要は、次のとおり補正するほか原判決の「事実及び理由」欄の第二と同じであるからこれをここに引用する。
一 補正
原判決四頁三行目から四行目にかけての「所得を含む」を「補償金を含む所得について」に、同七行目の各「更正処分」をいずれも「更正処分等」にそれぞれ改め、同五頁二行目の「双方の主張」の次に「(その主張金額の対比の概要は、原判決別紙二のとおり)」を、同一五頁四行目の「ものである」の次に「(以下、この特別控除の措置を『本件特例』という。)」をそれぞれ加え、同二三頁五行目の「新幹線事務所職員」を「長野県土木部北陸新幹線局の長野新幹線事務所の職員(以下『新幹線事務所職員』という。)」に改める。
二 当審における当事者双方の主張
1 控訴人
(一) 控訴人は、本件訴訟を甲第一号証(収用証明書)及び甲第二号証(内容証明郵便)に照らし、賦課決定処分の取消しを求めているのである。
控訴人は、原審において請求の趣旨を元に戻すよう再三申し立てたが容れられず、補佐人を付することの許可を求めたが却下された。これらの訴訟指揮は違法であり、原審の訴訟手続には違法がある。
控訴人は、収用委員会の裁決による補償について、公用負担法及び租税特別措置法に基づく証明書とその発行経緯を証する内容証明によって減免措置を求めているのに、被控訴人は事案をすり替え、公共事業等による用地取得の補償(売買)における減免措置の法規則を当てはめて不当不法の処分をした。
控訴人に対する土地収用法の適用は法定の手続を欠き、長野県職員らは、用地取得事務に関する協定書に違反し、用地取得事務を怠った。このことは、控訴人が収用残地を長野県に道路用地として売却した際の資料と比較しても明らかであり、このような杜撰な用地取得事務を本件処分の理由とすることは不当である。
(二) 本件処分により、控訴人は名誉を毀損され、侮辱を受けたものであり、本件処分は、職権濫用で瑕疵ある行政行為であって、本来の控訴人の納税額と被控訴人の本件更正処分による納税額との差額八三四万五七〇〇円の賦課処分は不当利得であるから、控訴人は、被控訴人に対して右不当利得金八三四万五七〇〇円の返還を求める請求の趣旨を追加する。
2 被控訴人
控訴人の不当利得返還請求の追加的併合に異議があるので、同意しない。したがって、右請求は不適法である。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正、付加するほか原判決の「事実及び理由」欄の第三と同じであるから、これをここに引用する。
1 原判決二九頁三行目の「証拠(乙第一、」を「控訴人は、第一土地と残地に対する収用裁決による補償金所得につき措置法三三条の四に規定する本件特例の適用がないとする本件更正処分と本件賦課決定処分の根拠を争うが、その余の所得等の額、必要経費等の控除すべき額、税額の算定方法、税額から控除すべき額、過少申告加算税額の算定方法については、これを明らかに争わないから自白しているものと認めるべきである。そこで、以下、本件特例の適用の有無について判断する。証拠(甲第一、第二号証、乙第一、」に改める。
2 原判決三二頁四行目の末尾に「右裁決によれば、本件収用等の権利取得の時期及び明渡しの期限は平成七年八月二六日とされた。」を加え、同四行目と五行目の間に次のとおり挿入する。
「6 控訴人は、本件収用による補償金について本件特例の適用を受けようとして、平成七年一〇月一七日本件事業施行者に対して確定申告に添附すべき収用証明書の発行を依頼したところ、本件事業施行者は、同月二〇日付けで控訴人に本件土地に関する収用証明書(甲第一号証)を発行交付した。」
3 原判決三二頁五行目の「措置法三三条の四にいう『買取り等の申出があった日』とは、」を「措置法三三条の四第三項一号にいう『最初に買取り等の申出があった日』とは、」に、同六行目の「対して。」を「対して、」に、同三三頁一行目の「確定的に」から同二行目の「あった」までを「行った」に、同六行目の「しないが、」から同三四頁三行目末尾までを「しないことは、控訴人もこれを自認しているところであるが、前記認定の事実によれば、新幹線事務所職員が行った控訴人に対する新幹線用地買取りの交渉は平成五年三月ごろから始まり、同年七月四日には買取代金が控訴人に坪単価と買取予定面積を特定して提示され、合計十数回にも及ぶ交渉の後、同年一二月二七日に新幹線事務所の職員は、その場で控訴人が破棄したものの、買取り申出があった日を証明し得る買取り申出証明書を控訴人に一旦手渡したと認められる。したがって、新幹線事務所職員の買取りに応じてほしいという要望の趣旨は長期にわたって控訴人に伝達され続け、平成七年七月四日以降は、買取りの代金額を提示した要望となっていたと認められるところ、この買取りの申出を最終的に日を確定した形で行おうとして同年一二月二七日に前記買取申出証明書を控訴人に交付しようとしたものと認められるから、右同日に確定的な買取申出の意思が控訴人に表示されたということができ、この日を措置法三三条の四第三項一号にいう『最初に買取り等の申出があった日』と評価するのが相当である。控訴人は、右買取申出証明書の交付を受けていないと主張するが、右のとおり控訴人は一旦これを受領した後に破棄したものであり、措置法三三条の四第三項一号の『申出があった』と認めるに十分な事実があるから、買取証明書の破棄があった右の日を六か月の期間の起算日とすることを何ら妨げるものではない。」に、同三五項一行目から二行目にかけての「右の解釈を採用することはできない。」を「控訴人の主張するような限定的に解すべき根拠はない。」に、同四行目の「主張するが、明文上」から同五行目末尾までを「主張する。措置法三三条の四第三項一号は、収用等による資産の譲渡が最初の買取り等の申出があった日から原則として六か月を経過する日までにされることを本件特例の適用の要件としているものであり、前記認定のとおり、『最初に買取り等の申出があった日』は平成七年一二月二七日と認められ、その『資産の譲渡』とは、原因が収用裁決であれ、又は和解であれ、資産の所有権の移転があったことを指すと解すべきであるから、本件収用裁決が権利取得の時期と決定した平成七年八月二六日がこれに当たると解するのが相当である。したがって、控訴人の右の主張は理由がない。」にそれぞれ改める。
二 控訴人の当審における主張について
1 なお、控訴人は、当審において、原審における訴訟指揮その他の訴訟手続に違法があると主張するが、原審記録と当審における控訴人の主張を検討するも、控訴人が主張するような訴訟手続上の違法は、これを認めることができない。
2 また、控訴人は、本件収用裁決がされる前の新幹線事務所の職員による買取りの申出等の用地取得事務が杜撰で懈怠があることをもって本件更正処分が違法であると主張するが、前示のとおり本件特例の適用の有無は、措置法三三条の四に規定する法定の要件の存否によるものであるから、控訴人の右の各主張はいずれも失当である。
3 前示のとおり、本件更正処分は適法であり、名誉毀損、侮辱、職権濫用の違法があると認めることはできない。
4 なお、本件記録によれば、控訴人は、平成一〇年九月一〇日の原審第一回口頭弁論期日において、被控訴人に対する不当利得返還請求の訴えを取り下げていることが認められるところ、当審においても、被控訴人に対して八三四万五七〇〇円の不当利得返還の請求をする。しかしながら、右の請求は、原審の経緯に照らせば、訴えの追加的変更となるべきものであり、行政事件訴訟法一九条一項後段、一六条二項の規定により、被告(被控訴人)の同意なくしてこれを行うことはできない。被控訴人は、当審における平成一一年一一月一八日の第一回口頭弁論期日において、控訴人の右の訴えの追加的変更に対して、異議を述べたことは当裁判所に顕著であるから、控訴人の右の請求の追加的変更の申立ては、これを許可することができず、控訴人の右請求は不適法であるといわざるを得ない。
三 結論
以上によれば、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、当審における追加的請求は不適法であるから却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 裁判官 廣田民生)